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  • kitane

「母」を想う


忘れられない出会いがあります。スクールカウンセラーとして勤務していた中学校で、当時中学2年生のA子ちゃんのお母さんが相談に来られました。お母さんは闘病中で、身体は痩せており、頭には帽子を被っていました。その日は1時間強お話を聞き、後日もう一度お会いしてお話を聞く機会がありました。


そして、その数か月後お母さんは亡くなりました。


中学3年生になっていたA子ちゃんが学校で私を訪ねて来てくれたのは、それから2ヶ月ほど経った頃だったと思います。真っすぐな目で私を見て『母がお世話になりました』と頭を下げました。私はお母さんとの会話を思い出しながら彼女に伝え、一緒に泣きました。


A子ちゃんは姉妹の長女で、私は妹達ともカウンセリングの場面で出会うことができました。次女のB子ちゃんも聡明で明るく、学校生活も問題なく送っていましたが、カウンセリングの中で、『昨日は気持ちが落ち込んでたけど、冷凍庫の中に、お母さんが握っておいてくれたおにぎりがあって、それを食べたら落ち着いた』と話してくれました。その言葉を聞いて、私はまた泣きました。B子ちゃんがお母さんと過ごした時間、お母さんがB子ちゃんに注いだ愛情、お母さんとの思い出、がB子ちゃんを支えていました。


お母さんが亡くなった時、まだ幼かった末子のC子ちゃんも小学生になり、希望して私に会いに来てくれました。三人とも、ほんのわずかでもお母さんと時間をともに過ごした私と話をして、私の記憶の中のお母さんに会いたいのだと感じました。


早くにお母さんを亡くしてしまった三人の娘たちをお父さんが懸命に育てました。そして数年後、美しく成長したA子ちゃんの成人式の写真を見せてもらった時には、また涙がでました。


子の成長を見届けられなかった母の悲しさ、母を想う娘たちの気持ち、父の気持ち。何を思ってもいまだに感情が揺さぶられる、私にとって特別な出会いでした。もう会うことはないかもしれませんが、私も彼女達の幸せを応援していきます。

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